こんばんは。ずっと気になってた映画『正欲』がU-NEXTで配信されてたので観ました。ちょっと長くなってしまいますが私が感じたことをつらつら書きます。

■誰にも言えない「好き」を抱えて生きるということ
この映画には水にフェチを感じる人たちが出てきます。蛇口から出る水や噴き出す水を見ているときだけ心が満たされる人たちです。
その人たちは変わった人として描かれていません。誰かを傷つけているわけでもない。ただ自分の中にある感覚を抱えて生きているだけ。
でも本人は「自分は普通じゃない」と思っているから誰にも言えない。言っても理解されないとわかっているからずっとひとりで隠している。その孤独が伝わってきて観ていて苦しくなりました。
人には理由はわからないけど惹かれるものや落ち着くものがあります。それがみんなと同じなら誰にも気づかれずに済むけど、少しでもズレていると「言わないほうがいいかな」と飲み込んでしまう。好きなものも落ち着く時間も怖いものも、本当は人それぞれのはずなのにいつの間にか「普通の範囲」を気にして隠してしまう。
実は私にも人にはなかなか言えない「好き」やフェチがあります。大したことじゃないと頭ではわかっているのに口に出すのはちょっとためらってしまう。そういうものですよね。
誰にも見せられない部分を抱えている人は実は少なくないんじゃないかと思います。
■「正しい欲」って誰が決めるんだろう
「正欲」は原作者の朝井リョウさんが作った造語のタイトルです。「性欲」と同じ読みで「正しい欲」という意味にも読めます。
異性を好きになる、恋愛して結婚する、子どもを持つ。こういう欲は「自然」で「健全」とされて説明しなくても通るので「正しい欲」とされます。でもそこから外れた欲は「どうしてそうなの?」と理由を聞かれたり異常だと思われます。「子どもは欲しくないけど結婚はしたい」「子供も欲しくないし結婚もしたくないけど異性とは付き合いたい」「異性と付き合いたくない」などなど。今ではそういう気持ちの人も増えてきましたが、まだまだ偏見は根深く残ってると思います。
でもそれって正しいかどうかじゃなくて、多数派か少数派かの違いなんじゃないかと思います。いつの間にか多いほうが正しいことにすり替わっている。
もちろん何でも尊重すればいいという話ではないです。相手の同意なしに誰かを傷つける欲は行動に移してはいけないし許されない。でも水に惹かれる人たちのように、誰も傷つけない欲まで「正しくない」の箱に入れられてしまう。線を引くべきなのは「普通かどうか」じゃなくて「同意があるか、誰かを傷つけないか」のはずです。
最近は「多様性」という言葉をよく聞くようになりました。でも認められるのは理解しやすくて共感できる違いだけだったりします。「そういう人もいるよね」と言えるのは自分が想像できる範囲の人まで。想像がつかない欲は多様性の外に置かれてしまう。この作品が突きつけているのはたぶんそこだと思います。
誰かを傷つけない限り欲に正しいも正しくないもないはず。そう思いました。
■「普通のレール」に乗れない苦しさ
例えば結婚して子どもを育てるという「みんなが進む道」に乗れない人たちの生きづらさも刺さりました。
周りは悪気なく「そのうちいい人が見つかるよ」「結婚しないの?」と言ってくる。善意だから否定もできないし傷ついていることも言えない。そういうのが積み重なって「自分はここにいていいのかな」と思ってしまう。
でもこれって映画の中だけの話じゃないですよね。
女性ならこう、男性ならこう、子どもならこう、大人ならこう。世の中にはいろんな「普通」のレールがあって、そこに乗れているか、普通のレベルに達しているか、普通の価値観を持っているかで人は見られたり、自分も人を見たりしています。
はっきり何か言われるわけじゃないし責められるわけでもない。それでもなんとなく劣等感や疎外感を感じる。「普通から外れてるかも」と一度も思ったことがない人のほうが少ないんじゃないでしょうか。
だから同じ感覚を持つ人と出会えたときの安心感があんなに切なく描かれていたんだと思います。恋愛とも友情ともちょっと違う「ひとりじゃなかった」という救いでした。
■稲垣吾郎さん演じる検事との対比
あとこの作品を観て特に印象に残ったのが稲垣吾郎さん演じる検事です。
家庭があって仕事も安定していて、世間的には「正しい」側の人。だから自分の「普通」を疑ったことがない。不登校になった息子のこともうまく理解できずにいます。
観ていて思ったのはこの人は悪い人じゃないということ。真面目で誠実で家族のことも大事にしている。
それでも自分の物差しでしか人を見られないと、その優しさが相手を追い詰めてしまうことがある。そこが本当に怖かったし他人事じゃないなと思いました。
水に惹かれる人たちと「普通」を疑わない人。どっちが正しいという話じゃなくてその間にある溝の深さを見せられた気がします。
■私が思ったこと
セラピストにとって大事なことはいろんな人の話を聞いて気持ちに寄り添うことだと私は考えています。
ここに来てくれる方も、普段は言えないことや誰にも話せない気持ちを抱えているんじゃないかと思っています。
「ちゃんとした大人でいなきゃ」「女性なんだから」「普通はこうだから」。そういう物差しで自分を責めてしまっている人もいるかもしれません。
そんなとき「それは普通じゃないよ」「そんなこと思うなんて変だよ」とは絶対に言いたくないです。かといって「わかるよ」と簡単に言うのもたぶん違う。わからないことのほうが多いので。
だから私はまず「そうなんですね」と受け止められる人でいたいです。完全に理解はできなくても否定しないことはできると思うので。
特に性に関することは女性のほうが言いづらいと思っています。「はしたないと思われるかも」「引かれるかも」と考えて、本当はしてほしいことがあっても飲み込んでしまう人が多いんじゃないでしょうか。
ベッドの上でも、こうしてほしい、これは嫌、もっとこうされたい、といった要望を口にするのは勇気がいりますよね。でも私の前では遠慮しなくて大丈夫です。
触れ方、強さ、ペース、してほしいこと、してほしくないこと。恥ずかしいことも含めて全部そのまま伝えてください。引いたりしないし、はしたないなんて思わないです。むしろ本音を教えてもらえたほうが私は嬉しいです。そのほうがお互いに気持ちよくなれると思うので。
ここは誰にも否定されない場所です。「普通でいなきゃ」とかは一旦置いて、そのままの自分で過ごしてください。
長くて重めの話になってしまいましたが本当におすすめの映画です。観た方はぜひ感想を聞かせてください。どこが心に残ったか話せたら嬉しいです。
それでは、また。









お店からのコメント
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