スーパーノヴァとは
星が寿命を迎える時に起こす“宇宙最大の爆発”
ひとつの星が砕け散り
その光と衝撃は銀河を揺らし
全てを破壊するほどのエネルギーを
宇宙に解き放つ現象のこと
──子供の頃
近くの大きな公園には「SL広場」があった
黒い蒸気機関車と
宇宙へ繋がるようなU字型の造形物
遅い時間まで一人で遊ぶ僕を
少し年上の女の子が心配して
手を引いて家まで送ってくれた
その手の中にはいつも
光るように甘い飴玉があった
大人になって
僕は「儀式」と呼ぶ旅を始めた
嫌な想い出の場所に足を運び
それを良い記憶に書き換える
過去の傷を消せば
もっと強く前に進めると思ったからだ
だがその儀式は
心のエネルギーを激しく削るものでもあった
そんな日々の傍ら
僕は宇宙センターで働いていた
不安定な恒星を観測し
地球への影響を調査する仕事
最近、風が強い
毎日嵐のように吹き荒れるその風を
誰もが異常気象と片づけていた
──ある日
最も嫌な記憶の地に立ち
いつもの儀式を終えた後
あのSL広場へと歩いていった
その瞬間、宇宙センターから電話が鳴る
「恒星が寿命を迎え、今日にもスーパーノヴァが発生する可能性がある」
僕は呟いた
「この嵐は……恒星から放たれた粒子の嵐
宇宙風が地球に届いていたのか」
スマホがけたたましく鳴り響き
地上の電子機器は狂い始めた
地球を破壊する光が迫っていた
振り返ると──あの女の子がいた
手を取り、僕をSLへと導く
轟音とともに鉄の巨体は動き出し
煙を吐きながら夜空を駆け上がる
999のように宙を舞い
U字型の造形物へ突っ込む
視界が闇に塗りつぶされ
気付くと僕は恒星の中心に立っていた
核は黒く沈み、死にかけていた
女の子はポケットから飴玉を取り出し
次々と光の珠を核へ投げ入れる
刹那、崩れかけた心臓が脈動し
まばゆい光が爆ぜる
死にゆく星に命が吹き返った
その光景を最後に
僕の意識は闇に沈んだ
──目を開けると
SL広場の地面に大の字で横たわっていた
女の子の姿はなく
ただ夜風だけが胸を撫でていく
僕はいつの間にか
偽りの光にすがり
本当の光を見失っていたのだろう
過去の痛みは
消し去るものではなく
今を輝かせるための光に変わる
胸の奥に吹く風は
かつての嵐とは違う
それは自由の空へ連れていく風
──そして僕は歩き出す
あの日もらった飴玉の光を
未来の灯りに変えながら
