アルバート・アインシュタインは言った
「想像できることが未来を創る」と
──子供の頃
自分の部屋で段ボールの箱舟を作った
完成させるのが楽しみで
胸を高鳴らせて帰宅すると
そこには大きな本棚が置かれていた
箱舟は押し潰され
本棚の後ろに追いやられていた
立派な棚に並んだのは
漫画本ばかり
やがて漫画本は重さに耐えられず
棚ごと歪んでしまい
なぜか怒られて、半分以上捨てられた
机の上にはびっしりと貼られた
勉強のスケジュール表
僕の心と棚は同じように
アーチを描いたまま
箱舟は闇に隠れた
──時は流れ
試験会場に座る僕がいた
国家資格はこれでいくつ目だろう
手応えはある、だが
手応えのない虚しさが残る
読んでいる本といえば
ほとんどが試験用の参考書だった
空想の世界は役に立たない
お金にもならない
そう言い聞かせながら
──仕事の現場
大型物件の構造調査
屋上から地下へと降りていき
最後の危険な作業にあたる
誤れば一気に水が流れ込み
地下は溺死の棺となる
指示を出す僕のトランシーバーが不調をきたす
次の瞬間、防壁扉が作動
怒涛のような水が流れ込む
「間違って押しやがった!」
叫んだ時にはもう遅い
轟音と共に水が押し寄せ
空気は薄れ
視界が闇に沈んでいった
──気づくと
僕は外に立っていた
空から豪雨が降り注ぎ
川は氾濫し
足元を飲み込もうとしていた
「ここは……山のふもと?」
必死に駆け上がる
頂上には一軒の家が見えた
「僕の実家だ……」
扉を開けると
そこには見覚えのある本棚があった
立ち尽くした僕の脳裏に
ひとつの記憶が蘇る
──本棚の後ろに
段ボールの箱舟があるはずだ
子供の頃は動かせなかった棚
全身で押すと
軋む音と共にわずかに動いた
そこに、確かに箱舟はあった
豪雨の中、外へと持ち出す
絶対に沈むはずの段ボールの舟
だが僕が乗り込んだ瞬間
箱舟は光に包まれ
近代的な巨大な船へと変貌した
激流を切り裂き
山を滑り降り
水飛沫と轟音の中を突き抜けていく
僕の身体は再び気を失った
──目を開けると
サプライヤーたちが僕を囲んでいた
「生きててよかった」
どうやら僕は地下の高い鉄筋にしがみつき
奇跡的に水を免れたらしい
普通の人間じゃ到底登れない高さ
皆が驚いていた
あの時の箱舟は幻だったのか
それとも本当に未来から来た船だったのか
ひとつだけ確かに言えるのは
僕は再び漫画やアニメを手に取ったこと
まだ名もない物語を始めるためには
誰も思いつかない想像をして
それを形にすることが必要だと
あの箱舟が教えてくれたからだ
──想像できることが未来を創る
それはアインシュタインの言葉であり
そして今の僕の、生きる物語でもある
