最近 不思議な夢を見る
大事なものを抱えて ただ勢いだけで走っている
気を許した瞬間 目の前が真っ暗になり
大事なものは音もなく消え
僕は奈落の底へと落ちていく
慎重に進んでいれば
その後悔の念を抱きながら いつも目を覚ます
目覚めれば現実
今日も会社で残業だ
大型の入札プロジェクト 入念に資料を整える
「そんなに細かく作ってどうする」
人の成果を利用することしか考えない同僚の声
僕は好きなこと以外に興味を持てない
でも 好きなことならば徹底的に慎重に
命を懸けるように準備をする
帰路 僕は秘密の路地裏へと足を向ける
誰も知らないもう一つの顔
僕は会社員でありながら 妖精ジョイの依頼で
異世界の魔王を討伐する仕事もしていた
そこに いつものようにジョイが立っていた
「今回の仕事は危険よ 狡猾な魔王の討伐
でも あなたの“慎重さ”が役に立つかもしれない」
依頼人は母と少女
「家族を助けて」と静かに願い
少女はチョコレートを差し出した
その落ち着いた瞳に違和感を覚えながらも
僕とジョイはそれを口にした
戦の準備
プラチナソードを三本 盾を九枚
素早さの実を百個
「相変わらず呆れるほど慎重ね」
ジョイは微笑むが 僕は笑わない
魔王の城
巨体が玉座から立ち上がり
黒い魔力が天を震わせる
剣と魔法が交錯し
轟音と閃光の中で激闘は続く
そして――
魔王の隙を突き
プラチナソードが奴の身体を真っ二つに切り裂いた
巨体が地に崩れ落ち 城内に重い沈黙が訪れる
勝利を確信した刹那
全身を痺れが襲った
「チョコレートには痺れ薬を仕込んでおいたのだ
少女は俺が操っていたのさ
情に流されたな 慎重な勇者よ」
断たれた魔王の身体は
黒い魔力に包まれながらゆっくりと元の形を取り戻していく
動けない僕
その瞬間 僕は小さく呟いた
「知っていたよ」
懐から素早さの実を一気に百個
口に放り込み 噛み砕き 飲み干す
全身を駆け巡る力
スピードが百倍になった瞬間
痺れからの回復も百倍の速さで進んでいく
麻痺した身体が一気に蘇り
稲妻のような速さで駆け抜け
プラチナソードが魔王を木端微塵にした
「ここまで…慎重なやつだったとは」
魔王の断末魔が響く中
僕は静かに剣を収めた
「慎重?違う
僕の慎重は
大切なものを守るための慎重なんだ」
勢いだけで突っ走り
気づけば失っていた数えきれないもの
世間の常識に逆らっても構わない
もう二度と 大切なものを見失わない
慎重さは臆病ではなく
過去の痛みから生まれた強さ
その強さを胸に
僕はこれからも歩みを進めていく
見えない未来を照らすのは
慎重という名の小さな灯火
