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写メ日記

全133件中131~133件を表示

龍生の投稿

ワックスとチョコレートと、破れた地図の端っこ

06/13 07:28 更新

破れた地図の端っこで
道を見失っていた頃、
僕は休みもなく時間を売っていた。

土日、
ビルのフロアにワックスをかけ、
無言の床に反射する自分と目が合った。

そんな毎日だった。
いつも同じ匂い、同じ動き。
でも、
そこにひとつだけ違う風が吹いていた。

同じくらいの歳の
かわいらしい女性。
いつも黙々と作業していたけど、
僕はある日、昼食に誘ってみた。

まさか、来るなんて思わなかった。
でも、彼女は「ぜひ」と笑ってくれた。

それから、
昼休みの時間が少しだけあたたかくなった。
外で会って、
おしゃれなレストランに行くこともあった。
清掃バイトの合間の、
小さな“旅”のような時間。

でもある日、ふと疑問が湧いた。

自分の時間を、
ほんの少しの「安心」と引き換えにしていいのか、
そんな疑問が胸に残った。

もっと、自分の時間を
自由に使っていいんじゃないか?

そう思って、
僕はバイトを辞めることを決めた。

最後の日、
彼女を都内のレストランに誘った。

僕が辞めると告げると、
彼女はポケットからチョコレートを取り出した。
まるで、全部を知っていたみたいに。

夜は深まり、少し飲みすぎて
駅までの道を彼女が支えてくれた。

改札の前で、
僕たちは立ち止まった。

時間がふっと止まったようだった。
そして、キスをした。

彼女の表情に浮かんだ
嬉しさと、少しの悲しさ。
たぶん、僕も同じ顔をしていたんだろう。

「またね」
その言葉を残して、
僕たちは別々の電車に乗った。

破れた地図でも、
歩き出せば、足元に道が生まれる。
その先に、いつか光が射すと信じた。

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電話と月の光と、パラレルワールド

06/11 23:04 更新

「真実を知りたい
 それがどんな結果だとしても」

その言葉が、夢と現実のすき間から
ふっと届いた気がした朝だった。

遠く離れた街、
僕は“自分の居場所”に戻るために
無機質な部屋で朝と夜を繰り返しながら
気づけば感情の温度もなくなっていた。
誰の声も聞かず
誰の声も届かない、そんな日々。

ある日、突然
電話が鳴った。

「私だよ。会いたい」
何年も前に、僕を置いて出ていったあの人の声だった。
僕は何も言えず、電話を切った。

そして数ヶ月が過ぎた頃、
戻ってきた僕に、ある旅人のような人が言った。
「会ってみたら、何か変わるかもしれないよ」

その言葉に背中を押されて
僕は銀の扉を開けた。

あの人と過ごした時間は、思っていたより
あたたかく、やさしかった。
それが“愛”だったのか
“演技”だったのか、僕にはまだわからない。

でもどこかで
——この物語は、自分の中で“都合よく綺麗にまとめたかった”だけじゃないか?
という声が響いた。

パラレルワールドのように
もうひとつの自分が別の地平で目を覚ましていた。
そして僕は気づく。
これは過去に決着をつける話じゃなく、
“自分の静けさを取り戻す”ための旅だったのだと。

夜、外に飛び出し
月の光を浴びながら
僕はポケットから銀のダーツを取り出した。

狙う先には
赤く脈打つ、“偽りの自分”という名の星。

そして
僕は、投げた。

胸の奥で何かが崩れ、
その跡にふわりと風が吹いた。
静かだった。
苦しみも、怒りも、言葉も消えて
ただ、平穏が残った。

「真実を知りたい
 それがどんな結果だとしても」

その言葉が、
ようやく自分のものになった気がした。

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花とコンクリートと、撮りかけの写真

06/10 22:34 更新

何もない日々だった。
ただ、何かを変えたくて
朝が来れば 会社へ
夜になれば コンクリートの箱の中
意味もなく身体を追い込んで
傷つけることで 自分の存在を感じていた。

誰にも頼らず
誰にも頼られず
進んでも進んでも 心は乾いていくばかりだった。

それでもやめなかった。
季節が変わっても 変わらずに通い続けた。
そんなある日——
彼女は現れた。

自由をそのまま切り取ったような人。
やりたいことはやる
やりたくないことはやらない
笑って、風のように僕の世界に入ってきた。

その笑顔は、咲き始めた花のように
心の奥をふいに照らした。

花を撮るのが好きで、
その瞬間を切り取ることが、彼女の自由のかたちだった。
写真展に誘われた日、僕はまだ、そこへ行く勇気がなかった。

羨ましかった。
あの頃の僕は
自由なんて 触れたこともなかったから。

それでも彼女は、
静かな瞳の奥に、誰も知らないほどの知性と責任を抱えていた。

驚きとともに、僕は自分を見つめなおした。

しばらくして
彼女は来なくなった。

僕は決めた。
ここを出よう、と。
不自由を脱いで
自由へ向かって歩き出すと決めた。

久しぶりに、彼女に連絡をした。
変わらない笑顔。
でも、彼女はもうすぐ結婚すると言った。
胸の奥に 小さな波紋が広がった。

帰り際、ふいに彼女が言った。
「あのとき、ほんとは好きだった」
そして
キスをした。

それで、すべてだった。
終電を逃して、僕は夜の街をさまよった。
偶然見つけた、小さなバー。
やさしい灯りと 静かな音楽に包まれて
朝まで、ただ心をあたためていた。

バッグの中に
彼女と一緒に写っていた撮りかけの写真があった。
ピントが甘くて
でも、笑顔だけがやけに鮮明だった。

何もないはずの日々から
すこしずつ、変化が始まっていた。

人は 出会い
別れ
失い
また手に入れ

そして僕は
いま、ここにいる。

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