灯りを落とした部屋の奥、
シーツの白さだけが、
夜に静かに浮かんでいた。
カーテン越しのオレンジの灯りが、
壁をやわらかく染めている。
遠ざかる喧騒と、近づく鼓動。
聞こえるのは、ふたりの呼吸だけ。
感性が強すぎるほどに、
誰にも見せられなかった部分がある。
言葉より先に感じすぎて、
世界のノイズに疲れていた日々。
けれど今夜、
その輪郭が少しずつやわらいでいく。
誰かと同じ空間にいることが、
こんなにも自然に感じられるなんて。
呼吸の間に、見えないメロディが宿っていた。
求め合うというより、
たがいに滲み合うように——
薄く香るリネンと肌の温度が、
時間の輪郭を曖昧にする。
過去も未来も持たずに、
ただ「今」だけが確かだった。
照らすつもりだったのに、
照らされていたのは、こちらの方だった。
——静けさの中、
ほどけていったのは、身体じゃない。
心だった。
