出会いは、
海を滑る船の上だった。
遠くから聴こえてくる音のうねりに誘われて、
夜風とともに、
彼女の世界へと吸い込まれていった。
静けさを宿した眼差しに、
なぜか心がほどけていく。
飾らないのに、
どこか、肌の内側まで届くような——
そんな余韻を残す人だった。
流れるような旋律が、
しなやかに夜を撫でていく。
彼女は音に寄り添いながら、
誰よりも自由に生きていた。
その指先が、
その視線が、
空気をなぞるたび、
僕の深いところが、静かにざわめいた。
触れたわけじゃないのに、
ふいに火照る瞬間があった。
やがて、
彼女の夜に、何度も誘われるようになっていた。
音に揺れ、
夜に溶ける。
彼女は、
静かな日々の中でも、
音という名の自由と繋がっていた。
今日もきっと、
彼女はどこかで鳴らしている。
誰にも縛られず、
誰かの奥に火を灯すように——
あの、自由という音楽を。
そして僕は、
あの夜とあの船と、
彼女の残した音の揺らぎを、
時空の狭間で、今もどこかで探している。
