当時の僕は、
静かに決められたレールの上を歩いていた。
整った日々のなかに、疑うことなく身を置いていた。
夜の街で、
ひときわ光を放つ音の波があった。
その中心にいたのは、
リズムを纏う脚線と笑顔が印象的な、自由な気配の女性。
ジャズのリズムと共に揺れる彼女の姿は、
まるで“音”と呼吸を交わしているようで――
その動き一つひとつが、生きている証だった。
初めて会ったのに、
彼女の吐息は、肌をなぞるように忍び込んできて、
理性の奥に、火種を落としていった。
アルコールと混じり合いながら、
僕の奥深くに火を灯したまま、静かに染み込んでいく。
夢を追いかけて何度も傷ついて、
それでも彼女は止まらなかった。
“選ばれること”より、
“選び続ける自分”に意味を宿していた。
その夜の熱が、
ゆっくりと僕の中で広がっていく。
帰り道――
空はもう、朝の光に満ちていた。
ビルのすき間から差し込む光に、
彼女の輪郭が浮かび上がる。
あの夜、
誰にも気づかれない場所で、
彼女の“イメージプレイ”に、僕の心は優しくかき混ぜられた。
そして静かに、
眠っていた何かが目を覚ました。
